2022年

問題96鉄骨構造とその材料に関する次の記述のうち,最も不適当なものはどれか.

(1)鋼材の降伏比は,引張強さの降伏強さに対する割合をいう.

(2)柱脚部と基礎は,支持条件により,ピン,半固定,固定等を選択して設計する.

(3)スタッドボルトは,鉄骨梁とコンクリートスラブを緊結するために使用する.

(4)鉄骨構造の解体は,一般の鉄筋コンクリート構造より容易である.

(5)高力ボルトの締付け長さは,接合される鋼板の板厚の総和をいう.

2022年

問題96正解(1)頻出度AAA

降伏比は,降伏強さの引張強さに対する割合,すなわち,

降伏比=降伏強さ/引張強さ

である.

鋼材の「応力-ひずみ曲線(2022-96-1図)」で,弾性変形から塑性変形への境界となる降伏棚の応力度を「降伏強さ(降伏点)」,塑性変形から破断に至る,応力度が最大になった点を「引張強さ」という.

2022-96-1図鋼材の応力―ひずみ曲線
鋼材の応力―ひずみ曲線

出典 公益財団法人日本建築衛生管理教育センター
新建築物の環境衛生管理H31.3.31第1版第1刷 上159 図3-4-1(3)を基に作成

参考までに棒鋼の引張試験の動画を添付する.

通常の構造設計では,想定される荷重により部材に作用する応力度が弾性域内(≒降伏強さ)に収まるよう設計する(塑性変形は許されない)が,大地震などにより想定を超える荷重が作用しても,鋼材は,応力度が引張強さに達するまで持ちこたえることができるため,建築物は塑性変形しても,内部の人間が避難できる可能性は高くなる(すなわち,鋼材は塑性変形することによって地震のエネルギーを吸収する).

降伏比は安全に対する余裕度を示す指標と捉えることができる.降伏比が小さい鋼材を用いた建築物ほど,想定外の荷重が作用しても,完全に破壊するまでの余力がある建築物とみなすことができる.

例えば汎用材としてよく使用される鉄鋼材料SS400の降伏点は245N/mm2,引っ張り強さは400N/mm2である.降伏比は,245÷400=60%である(降伏比の上限は80%以下と規定されている).

鉄筋コンクリート造は降伏比がほぼ1で,大地震に対してほとんどひずむことなく破壊される(これをぜい性破壊という.ガラスが割れるような破壊).降伏比で余裕のある鉄骨造が地震に対して有利とされる最大の理由である.

-(2) 最も重要な支持条件は,外力に対して建物全体でバランスよく耐えることで,一部の部材に応力が集中しないようにすることである.そのためには外力を逃がすことも場合によっては必要で,ピン支持にすれば理論的には,柱には曲げモーメントが発生しなくなる.ピンか半固定か固定かは,外力の大きさによって相対的に変化するが,鉄骨構造の場合H鋼のウェブだけを接合すればピン,フランジも接合すれば固定,間にプレートを挟むと半固定などとされる.

-(3) スタッドボルトによって緊結されたコンクリートスラブと鉄骨梁を合成梁という(2022-96-2図>参照).  

2022-96-2図合成梁
合成梁

-(4) RC造と比較した鉄骨構造の特徴は次のとおり.

1)比強度が大きく大スパン構造や高層建築に用いられる.特に鉄骨によるトラス構造は大スパン構造に適している.

2)じん性に富み,耐震的に有利な構造にしやすい.

3)施工の工期も短く,解体も容易.

4)(欠点)耐火耐食性に劣り,耐火被覆,防錆処理を要する.

-(5) 高力ボルト接合の締め付け長さ2022-96-3図参照.  

2022-96-3図高力ボルト接合
高力ボルト接合

出典 公益財団法人日本建築衛生管理教育センター
新建築物の環境衛生管理H31.3.31第1版第1刷 上1137 図3-3-2(3)を基に作成