2023年
問題35振動に関する次の記述のうち,最も適当なものはどれか.
(1)振動レベルの単位はHzで示される.
(2)振動は全身に分布する交感神経末端の受容器により知覚される.
(3)全身振動は,水平振動のみで評価される.
(4)長距離バスやフォークリフトの運転などにより, 局所振動障害が起こる.
(5)振動を原因とする白ろう病では, 指に境界鮮明な蒼そう白化状態が発生する.
2023年
問題35正解(5)頻出度AAA
シベリアなどの寒冷地でチェーンソーを扱う労働者に見られるレイノー現象(白ろう病)は,寒冷と振動によるそう末梢血行障害である.指に境界鮮明な蒼白化状態が発生する場合がある(2023-35-1図参照).
出典独立行政法人労働者健康安全機構
https://www.research.johas.go.jp/sindou/03.html
人間の受ける振動は,「全身振動」と「局所振動」に分けられる.環境要因として問題になる振動(環境振動)は,全身振動で1~90Hz,局所振動で8~1,000Hzである.
全身振動の知覚は主に内耳の前庭器官と三半規管が加速度の変位を感知することによる.
全身振動は,鉛直振動と水平振動に分けて測定・評価され,人は鉛直振動のほうを水平振動より敏感に感じる.
全身振動で受ける感覚は,周波数によっても異なり,身体の姿勢,振動継続時間によっても異なる.全身振動では低周波数域に対してヒトの感覚は鋭く,周波数の増加とともに感覚が鈍くなってくる.鉛直振動では 4~8Hz の振動に最も感じやすい.水平振動では1~2Hzである
周波数1Hz以下の乗り物などの揺れに対しては,一般に,鉛直方向よりも水平方向の方が敏感である.乗り物酔い(動揺病)は,周波数が1Hz未満で振幅が大きい場合に起こる.
人間の周波数による振動感覚の違いを補正して計測した振動加速度レベルを,周波数補正加速度レベル又は単に振動レベル(:Vibration Level)という(補正前の振動加速度レベルは,
:Vibration Acceleration Levelという).
全身振動の評価量はこので表される.
ただし,:振動感覚補正を行った振動加速度の実効値[m/s2],
:基準加速度=10-5m/s2.
振動レベル55dBは地震の震度段階0(無感)に相当し,振動感覚閾値という(地震の震度は,計測された振動加速度から計算される).
戸外の振動測定は一般的に地上面で行われ,X,Y,Z軸3方向について行われる.
地面の振動は建物によって一般的に増幅される.建築物・地面の共振周波数は3~6Hz付近にあり,屋外地上面より建築物内床面の振動レベルの方が高くなることがある.立位及び座位の鉛直振動による人体胸腹部の共振周波数(4~8Hz)もこれに重なるので,建築物による振動の増幅を考慮する必要がある.
バスやトラックなどの交通車両,トラクタ,フォークリフトなどの作業車両の運転者に,比較的強い垂直振動(全身振動)により胃下垂などの内臓下垂や腰痛など骨・関節の障害を生じやすい.
局所振動の知覚は,皮膚,内臓,関節等,人の全身に散らばる知覚神経末端受容器(パッチニ小体等)によりなされる(選択肢-(4) の交感神経は副交感神経と対になった自律神経系で,振動の知覚とは直接関係がない).
寒冷下では,皮層の血流は体温維持のために元々減少し,酸素や栄養素の供給が滞っている.そこに局所振動が加わって,毛細血管や末梢神経が傷むことがレイノー現象や感覚運動神経障害などの健康障害を引き起こし,長期間振動作業による末梢神経障害が進行すると,手指の伸展に支障がみられることがある.
シベリアなどの寒冷地でチェーンソーを扱う労働者に見られるレイノー現象(白ろう病)は,寒冷と振動による末梢血行障害である.