2023年
問題174ネズミの生態や防除に関する次の記述のうち,最も適当なものはどれか.
(1)建築物内のIPMによるネズミ防除は,餌を断つこと,殺鼠剤を適切に使用すること,通路を遮断すること,の3点を基本として進める.
(2)建築物における維持管理マニュアルでは,生きているネズミが確認されないことをもって「許容水準に該当する」としている.
(3)ネズミが活動した際に残す証跡のうち,糞ふん,尿,毛,足跡,かじり跡をラブサインと呼ぶ.
(4)家住性ネズミの警戒心は,クマネズミが最も強く,次いでドブネズミで,ハツカネズミが最も弱い.
(5)生け捕りかごなどのトラップを用いたドブネズミの駆除を行う場合,「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」の規制を受ける.
2023年
問題174正解(4)頻出度AAA
クマネズミはドブネズミと比べて,警戒心が強く,毒餌をなかなか食べず,防除が困難である.ドブネズミは,獰猛であるが警戒心が弱いため,防除は比較的やりやすい.ハツカネズミは,好奇心が旺盛でトラップにはか かりやすいが,殺鼠剤にはもともと強い.
建築物内に定着する,クマネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミの3種を家住性ネズミ(家ねずみ)という(2023-174-1図参照).
出典名古屋市
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000011677.html
北海道,東北,四国を除いてクマネズミが優占しており,特に都心の大形の建築物では,ほぼクマネズミとなっている.
ハツカネズミは農村や港湾地域に分布しており,建築物では少ない.
ネズミの糞からは,食中毒の原因となる病原体が検出されることがあり,ネズミはぺストやサルモネラ症等の病原体を媒介する他,電気設備に触れて起きる停電事故や,ケーブルをかじってコンピュータの誤作動や火災 の原因になる等,様々な被害を引き起こす.
1.クマネズミ
1)都心の大形ビルではクマネズミが優占種である.
2)運動能力に優れパイプ,電線を伝ったり垂直行動が得意で,いたるところから侵入する.天井,はりなど建物の比較的高層部分まで生息する.
3)クマネズミは動物性の餌も食べるが植食性が強い.
4)大きさは,頭胴長(頭から尾の付け根までの長さ)が,成獣で 15~23cm,体重は,大体 100~200g である.形態的な特徴は,耳が大きく,折り返すと目を覆うほどで,尾長は体長よりも長く,頭胴長の約 1.1 倍程
である.背面が黒褐色で,腹面はやや黄褐色のものが多い.
5)クマネズミはドブネズミと比べて警戒心が強く,毒餌をなかなか食べず,粘着トラップにもかからず,防
除が困難である.
2.ドブネズミ
1)ドブネズミは比較的平面的な活動をするので,地下やちゅう房,低層階に多い.ビルの周囲の植栽の土壌などに穴を掘って巣としている.
2)ドブネズミは泳ぐことが得意で排水溝が最も重要な侵入場所である.大洗便所から侵入することもある.
3)ドブネズミの食性は雑食性であるが,動物蛋白を好む.
4)ドブネズミの大きさは,頭胴長が成獣で 22~26cm,尾長は体長よりもやや短い(体長の 0.7~0.9 倍).体重は,成獣で 200~500g 程度,最大のもので 500g を超す.耳は小さく肉厚で,倒しても目まで届かない.毛色は,基本的に背面が褐色,腹面が白色であるが,全身黒色等に変化したものも多い.
5)性格は獰猛(どうもう)であるが警戒心が弱いため,防除は比較的やりやすい.
3.ハツカネズミ
1)農村で優占種であるハツカネズミの土生息地は畑地とその周辺地域や港湾地域であるが,秋から冬にかけてビル内にも侵入する.ビルでは局所的な分布で,生息数はドブネズミやクマネズミより少ない.行動範囲も小さい.
2)種子食性である.
3)これら家住性ネズミ3種の中では最も小形で,頭胴長が,成獣で 6~9cm,尾長は体長よりやや短い程度(体長の 0.9~1.0 倍),体重は成獣で約10~20gである.耳が大きくハツカネズミ特有の臭いを有する.
4)ハツカネズミはドブネズミと違って,水気のない環境下でも長期間生存できる.
5)好奇心が旺盛でトラップにはかかりやすいが,殺鼠剤には強い.
-(1) IPM※によるネズミ防除の基本は,①餌を断つこと,②通路を遮断すること,③巣を作らせないこと,である.
※ IPM(Integrated Pest Management:総合防除あるいは総合的有害生物管理)
ビル管理法の特定建築物では,「建築物環境衛生維持管理要領(平成20年厚生労働省健康局長通知)」ならびに「「建築物における維持管理マニュアル」に沿ったIPMに基づくねずみ,昆虫等の防除が求められる.要点は次のとおり.
1.生息調査について
的確に発生の実態を把握するため,適切な生息密度調査法に基づき生息実態調査を実施すること.
2.目標設定について
生息調査の結果に基づき,目標水準(維持管理水準,2023-174-1表)を設定し,対策の目標とすること.
許容水準 | 環境衛生上,良好な状態をいう.施行規則及び告示に基づき,6カ月以内に一度,発生の多い場所では2カ月以内に一度,定期的な調査を継続する. |
警戒水準 | 放置すると今後,問題になる可能性がある状況をいう. |
措置水準 | ねずみや害虫の発生や目撃をすることが多く,すぐに防除作業が必要な状況をいう. |
-(2) 「建築物における維持管理マニュアル」ネズミ防除の標準的な維持管理水準2023-174-2表参照.
許容水準 | 以下の全てに該当すること.
①生きた個体が確認されないこと. ②配置した無毒餌が喫食されないこと. ③天井の出入り口に配置した黒紙に足跡や囓り跡が付かないこと. |
警戒水準 | 以下の全てに該当すること.
①生きた個体が確認されないこと. ②無毒餌の喫食,配置した黒紙に足跡や囓り跡のどちらか一方が確認される. |
措置水準 | 以下のいずれか1つ以上に該当すること.
①生きた個体が確認される. ②食品や家具・什器等に咬害が見られる. ③無毒餌の喫食,配置した黒紙に足跡や囓り跡の両方が確認される. |
-(3) ネズミが活動した際に残す証跡のうち,糞,尿,毛,足跡,かじり跡は,ラットサインという.ネズミはいつもだいたい同じ場所を移動するので,身体の脂,汚れが壁面,パイプなどにこすり跡を残す.これをラブサイン(rub:こする)という.これらから種類,行動範囲を判断することができる(証跡調査法).
-(5) 家住性ネズミ3種類については,鳥獣保護管理法の適用対象外である(同法施行規則第78条).