2024年

問題172薬剤とその特徴や効力,製剤との組合せとして,最も不適当なものは次のうちどれか.

(1)メトフルトリン      常温揮散製剤

(2)ジクロルボス       食毒剤

(3)プロフラニリド      有機リン剤などに対する抵抗性を示す集団への対策

(4)フェノトリン       ULV 処理専用の水性乳剤

(5)エトフェンプロックス   ピレスロイド様化合物

2024年

問題172正解(2)頻出度AAA

有機リン剤であるジクロルボスは,常温揮散性が大きく樹脂蒸散剤として利用される.食毒剤ではない.

屋内衛生害虫用の殺虫剤には,有機リン剤,ピレスロイド剤,昆虫成長制御剤,その他の種類がある.

1.有機リン剤

1)作用機構は,神経の刺激伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素のコリンエステラーゼの作用を阻害し,アセチルコリンが過剰状態になって異常が起こる.

2)特徴

(1)比較的速効性で残効性もあり多くの害虫に有効.

(2)一度ノックダウンした虫は蘇生することなくそのまま死亡する傾向が強い.

薬量や濃度の増加に伴う致死率の上昇は有機リン剤の方が急激で,ピレスロイド剤の方がなだらかである.このため,有機リン剤では,一度ノックダウンした虫は蘇生することなくそのまま死亡する傾向が強く,ピレスロイド剤ではいったんノックダウンされた害虫が蘇生することがある.

(3)急性毒性が比較的高く,蓄積性,慢性毒性は高くない.

(4)近年,イエバエをはじめとして多くの害虫に高い抵抗性の発達が見られる.

(5)有機リン剤には化学構造的に対称型と非対称型が存在する.

主な有機リン剤を2024-172-1表に示す.

2024-172-1表主な有機リン剤
ダイアジノン 致死効力,速効性,残効性のバランスがよい.ハエに効力が高い.ダイアジノンのマイクロカプセル剤(MC剤)は日本で最初に開発された.
ジクロルボス 蒸気圧が高く常温揮散性が大きい.速効性が極めて高いが残効性には欠ける.樹脂蒸散剤として利用される.
フェンチオン 多くの害虫に有効であるが特に蚊に効力が高い.水中に処理した時の残効性が高い.
フェニトロチオン 日本で開発された対称型有機リン剤で,広範な害虫に有効で最も汎用されていが,ゴキブリに対する残留処理で特に有効.商品名スミチオン.MC剤もある.
テメホス 毒性が極めて低いが蚊幼虫に特異的に有効.他の害虫には効果は低い.
クロルピリホスメチル 安全性が高く広範な害虫に有効でバランスがよい.特に蚊に有効.
建築基準法で建材に含まれてならないとされたシロアリ駆除に用いられるクロルピリホスとは別物.
プロペタンホス PCOに汎用される非対称型有機リン剤.対称型有機リン剤に抵抗性を獲得した害虫が交差抵抗性を示す度合いが低く有効性が高いと考えられている.抵抗性のハエに有効.MC剤がある.

PCO(ペストコントロールオペレータ)とは害虫駆除業者を指す.

2.ピレスロイド剤

1)作用機構は,接触毒として虫体に侵入し神経のナトリウムチャンネルへの特異的な作用によるものと考えられている.

2)特徴

(1)除虫菊の有効成分ピレトリンに似た合成物質.

(2)速効性が高く,ノックダウン(仰天)効果に優れている.

(3)いったんノックダウンされた害虫が蘇生することがある.

(4)人畜毒性は低いが,魚類には毒性が高く,水域では使用できない.

(5)ピレスロイド剤は一般に昆虫に対する忌避性が認められるので,蚊などの飛翔昆虫や吸血昆虫に対する実用性が高いが,毒餌に混ざったり,かからないように注意が必要である.

(6)ゴキブリなどがピレスロイドに触れて潜み場所から飛び出てくることを,フラッシング効果(追出し効果)と呼ぶ.

主なピレスロイド剤を2024-172-2表に示す.

2024-172-2表主なピレスロイド剤
ピレトリン 天然の除虫菊の殺虫成分.極めて速効性が高いがノックダウンした害虫が蘇生する.
アレスリン 速効性が高く,多くの薬剤に混合して用いられる.
フタルスリン ノックダウン効果が高く電気蚊取りに多用される.
レスメトリン 致死効力が比較的高い.
ペルメトリン 致死力,残効性が高くゴキブリ防除用にPCOによって汎用される.
水性乳剤がULV専用剤として承認されている.
フェノトリン ペルメトリンに類似する.シラミ用として人体に直接使用できる製剤(シャンプー,ローション)がある.
水性乳剤がULV専用剤として承認されている.
エンペントリン 衣類の防虫剤として紙に含浸させた製剤がある.
エトフェンプロックス 厳密にはピレスロイドではないが作用は類似している.
イミプロトリン 超速効性を示す.
シフルトリン 致死活性が極めて優れている.
トランスフルトリン
メトフルトリン
常温で気化して効力を発揮する.

3.昆虫成長制御剤(IGR)

羽化阻害剤とキチン合成(脱皮)阻害剤(表皮形成阻害剤)がある.

昆虫及び多くの節足動物の変態などに生理的な変化に影響を与える.

昆虫成長制御剤の幼生に対しての効果は最終的に死に主らせるが速効的ではない.又,成虫に対しては致死的効力を持たない.

IGRに抵抗性をもつ害虫が報告されている.

1)羽化阻害剤

幼若ホルモン様化合物で昆虫の羽化妨害し,成虫を出現させない.メトプレン,ピリプロキシフェン(商品名:スミラブ)がある.ゴキブリのようなさなぎになることがない不完全変態の昆虫には効果がない.

2)キチン合成(脱皮)阻害剤(表皮形成阻害剤)は,脱皮時の新しい表皮の形成を妨げる.ジブルベンズロンがある.

4.その他の薬剤

1)カーバメート剤

有機リン剤と同様の作用をもつ.プロポクスルのみが製剤として認可されている.

2)メトキサジアゾン

ピレスロイド抵抗性チャバネゴキブリに有効.加熱蒸散剤の有効成分に利用されている.

3)ヒドラメチルノン

効果の発現が遅く,食毒効果が高いのでゴキブリやアリの駆除用食毒剤として利用されている.

4)ホウ酸

古くからゴキブリの食毒剤として利用されている.

5)オルトジクロロベンゼン

ハエの幼生(うじ)殺し.殺菌作用を持つので浄化槽などへの使用は避けなければならない.

6)忌避剤

忌避剤は一般に殺虫力は示さないが,蚊,ブユ(ブヨ)などからの吸血を避けるために皮膚や衣服に処理する.ディート(deet:ジエチルトルアミド),イカリジンなどがある.

7)アミドフルメトは屋内じん性ダニに有効な成分である.