2024年
問題179建築物衛生法に基づく特定建築物内のねずみ・昆虫等の防除に関する次の記述のうち,最も適当なものはどれか.
(1)ニューサンスコントロールとは,感染症の媒介を断つための手段として行うねずみ等の防除である.
(2)IPMにおける「許容水準」とは,放置すると今後,問題になる可能性がある状況をいう.
(3)IPMに基づくねずみ等の防除では,定期的・統一的な薬剤処理を行う.
(4)調査では,被害状況に関する聞き取り調査を重点的に行えばよい.
(5)ねずみ等に対する対策を行った場合,有害生物の密度調査などによって,その効果について客観性のある評価を行う.
2024年
問題179正解(5)頻出度AAA
-(5) が正しい.防除効果の評価は有害生物の密度と防除効果等の観点から実施すること.
厚生労働省から通知されている「建築物における維持管理マニュアル」により,特定建築物ではIPM※に基づく防除が求められている.
※ IPM(Integrated Pest Management:総合防除あるいは総合的有害生物管理)
IPMの実施にあたっての留意点
1.生息調査について
的確に発生の実態を把握するため,適切な生息密度調査法に基づき生息実態調査を実施すること.
IPMでは,事前の調査なしに薬剤を撒くなどということはあり得ない.
調査は,目視調査や聞き取り調査だけではなくて,トラップ調査など客観的な方法も取り入れること.一般の場所は,ビル管理法施行規則により6カ月,食料を取扱う区域並びに排水槽,阻集器及び廃棄物の保管設備の周辺等特にねずみ等が発生しやすい箇所については,「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」により2カ月に1回定期に調査する.
2.目標設定について
生息調査の結果に基づき,目標水準(維持管理水準,2024-179-1表)を設定し,対策の目標とすること.
許容水準 | 環境衛生上,良好な状態をいう.施行規則及び告示に基づき,6カ月以内に一度,発生の多い場所では2カ月以内に一度,定期的な調査を継続する. |
警戒水準 | 放置すると今後,問題になる可能性がある状況をいう. |
措置水準 | ねずみや害虫の発生や目撃をすることが多く,すぐに防除作業が必要な状況をいう. |
維持管理水準は,該当建物または該当場所ことに設定することができる(2024-179-2表).
許容水準 | 以下の全てに該当すること. ①トラップによる捕獲指数※が0.5未満. ②1個のトラップに捕獲される数は2匹未満. ③生きたゴキブリが目撃されない. |
警戒水準 | 以下の全てに該当すること. ①トラップによる捕獲指数が0.5以上1未満. ②1個のトラップに捕獲される数は2匹未満. ③生きたゴキブリが時に目撃される. |
その他,①~②の条件について許容水準及び措置水準に該当しない場合は警戒水準とする.) | |
措置水準 | 以下の状況のいずれか1つ以上に該当すること. ①トラップによる捕獲指数が1以上. ②1個のトラップに捕獲される数が2匹以上. ③生きたゴキブリがかなり目撃される. |
※ 捕獲指数:ゴキブリ指数を用い,配置したトラップ10個までは上位3つまで(0を含む場合もある),それ以上配置した場合については,上位30%のトラップを用いて,1トラップに捕獲される数に換算した値で示す.
3.防除法について
ア 人や環境に対する影響を可能な限り少なくするよう配慮すること.特に,薬剤を用いる場合にあっては,薬剤の種類,薬量,処理法,処理区域について十分な検討を行い,日時,作業方法等を建築物の利用者に周知徹底させること.
イ まずは,発生源対策,侵入防止対策等を行うこと.発生源対策のうち,環境整備等については,発生を防止する観点から,建築物維持管理権原者の責任のもとで当該区域の管理者が日常的に実施すること.
ウ 有効かつ適切な防除法を組み合わせて実施すること.当該区域の状況に応じて薬剤やトラップの利用,侵入場所の閉鎖などの防虫・防そ工事を組み合わせて実施すること.「防そ構造・工事基準案」では,開口部には,網目が1cm以下の格子や網を設置し,ドアは自動ドアが有効で,扉の周辺のすき間も1cm以内とするとしている.
エ 食毒剤(毒餌剤)の使用に当たっては,誤食防止を図るとともに,防除作業終了後,直ちに回収すること.
オ 薬剤散布後,一定時間入室を禁じて,換気を行う等利用者の安全を確保すること.
生捕りかご,圧殺式のトラップ,粘着シートなどは,できるだけ数多く設置する.餌をつけた上で,ねずみが慣れるまで数日間はトラップが作動しないようにするなどの工夫をして,捕獲効果を上げる.
殺鼠剤に抵抗性を獲得したクマネズミの対策には,粘着トラップが多用されている.
トラップで捕えたネズミはできるだけ早く回収しないと死体にハエなどが発生する.
5.評価について
対策の評価を実施すること.評価は有害生物の密度と防除効果等の観点から実施すること.
-(1) 感染症を媒介する媒介動物(ベクター)の防除をベクターコントロールといい,不快感を与える不快動物 (ニューサンス)の防除はニューサンスコントロールという.ニューサンスの中には,感染性はないがアレルギー性疾患や皮膚炎を引き起こす有害動物が含まれる.
-(3) IPM では,まず調査ありき.生息実態調査なしに定期的に薬を撒くのはご法度である.
-(4) 生息実態調査は,ゴキブリであればトラップによる調査,ネズミであれば,ネズミの生活痕であるラットサインの調査(証跡調査法)など,客観的な方法を重点的に用いる.